コンバインに泣いている。

9月になってもまだまだ暑い。33℃、炎天燃えるような暑さよ。夜這い草が稲の穂を覆ってきた。見ての通りまだ青いから、せめてあと一週間、と思いながら刈り始めている。田んぼ一枚刈った。田んぼにはそれぞれ名前がついている。小川、八十坪(ハチャツボ)、五升米(ゴショマイ)、それぞれに歴史物語が付いている。我家の伝統文化だよ。

江戸時代に年貢を納めるのに、田んぼの面積を記録していた。1反-300坪の面積に、八十坪と呼んでいた。そんなわけないわな。5俵の米が取れる田んぼに、五升米と言っていた。何も知らない人が聞くとチンプンカンプンだろうて。それだけ税金を払いたくなかったのだ。今から50年前まで、開山興国寺の年貢に4俵、5俵を納めていた。

ずーっと寺総代だよ。それがヒョンナことから、人はみな平等じゃないかという人が現れた。親父は大喜びしたよ。その通りだ。さっそくみんなで平等に年貢を納めて、役員も持ち回りにしよう、ということになった。とんとん拍子よ。時代背景もある。宗教のありがたみもなく、人々のつながりは消えていた。我家も皆さんと同じく米一袋、30㎏だよ。

楽チンになったけど、なんだかおかしい。それが今は現金納付で5千円か。かつては北条政子の荘園になり、源実朝の墓がある。我家も深く関わってきたと聞いている。由良の庄は港町だから人の出入りが激しい。ほとんど他所から来た人ばかりだ。南海道の東端よ。九州や四国の人が多い。それらの地域と名字が同じだと聞く。

我家のような京都からの都落ちはない。みんな元気いっぱいだよ。言葉の汚さは、大阪から電車に乗って帰ってくるとすぐに分かる。男も女も、なんという下品な人たちよと。18年前に買ったコンバインだよ。何とか1枚刈って、2枚目になった時、カッターのワイヤーがぶつりと切れた。そのまま刈り続けると、稲藁を送るチェーンが妙に緩く動かない。

ドラムが止まった時、ドラムに付いているブーリンが千切れて落ちていた。鉄の塊だよ。疲労破壊だ。エンジンが22馬力と大きいから、各部品にその応力が負担になったんだろう。そして今日は雨。ブルーシートを掛けて放ったらかしよ。18年前は200万円だったけれど、今は300万円もするらしい。米1俵60㎏が1万円の安値を思うと、とても買えるような機械ではない。

私には預金なんかないから、元公務員の妹に相談した。好きにしたら、ということだ。私は我儘だから人との共有は考えられない。その人だって嫌だろう。百姓とはそういうものだ。トラクター、田植え機、乾燥機、籾摺り機、米撰機、すべてフル装備なのだ。ほとんどの人は赤字経営やろうな、と思っている。国の政策なのだ。目の前の山々には風力発電が林立している。

突然鼻血が出てきたという百姓の話。しんどくなってきて、仕事にならないという人は多い。脳梗塞と癌が多い。ここにいれば病気になるリスクがある。大体は敏感に感じ取っているだろう。それを「風力の被害など聞いたこともない」と人々は吹聴して喜びあっているんだから大したものだよ。歪んだ情報とピエロを演じる被害者たち。

たくさんの人から汚い叫びをぶつけられたから、私にはもうどうでもよい。公害とはどこでもこんなものだよ。水俣なんか今でもスゴイじゃないか。水俣学が~とか言ってさ、私は言葉をなくして逃げ飛んだよ。同じやり方だね。根源は闇の権力意識だ。コンバインの300万円か。稲刈りはまだこれからだ。至急酒飲みながら考えて判断する。

百姓するのも大変なことだよ。それにしても暑い。大型台風は日本海を北上しているという。少し助かった。あとは雨の始末だ。田んぼの水が抜けてくれればよいが。